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no.33
2019 01/13(水)ー 02/16(土)


発 酵 を よ む  藤枝 守・井上明彦・稲垣智子
reading fermentation Mamoru Fujieda・Akihiko Inoue・Tomoko Inagaki

  
藤枝守/インスタレーション:井上明彦/映像:稲垣智子  音楽会:中川佳代子/和琴  





発酵をよむ。 藤枝 守(作曲家)

発酵という生命現象。微生物によるその原始の生の姿や変容をよむ。そもそも、発酵に興味を抱いたのは、数年まえ、九州の焼酎メーカーの集まりに参加したときのことだった。麹菌と麦や芋などの原材料を仕込んだ醪(もろみ)のなかでは、どのような発酵の響きが渦巻いているのだろうと想像したのである。
じっさいに、醪のなかの微生物の声をきいてみようと、特殊に養生した水中マイクを試作し、そのマイクを持参して焼酎の蔵元を訪ねてみた。そして、発酵の現場となる醪のなかにしずかに沈めたときに、マイクを通じたその発酵する響きは、じっと聴き入りたくなるくらいに心地いいものだった。
この発酵の響きの心地よさは、たんに生命体が発するからだけではなく、その生命活動を成り立たせる場、あるいは器としての「甕」という存在も大きいように思えた。つまり、微生物がさまざまに排出する炭酸ガスや温度の変化によって甕のなかに対流運動が起こり、その流体のうねりが心地よい周期を生みだしているように思えたのである。生命を育む環境としての「甕」と発酵という微生物の生命維持メカニズムとの相互性のなかにミクロな生態系が現れる。





関連イベント  2 /11(月・祝)




一部 アーティストトーク「発酵をよむ」 
  藤枝守・井上明彦・稲垣智子

 
ーー 八女茶と和菓子のふるまいーー

 

二部

音楽会「この御酒を醸みけむ人は」
 和琴/中川佳代子
 演目/和琴による「植物文様琴歌集」(藤枝守作曲)

 
 プログラム >>



 

開場:14:30 開演:15:00
会場:高津宮「富亭」
(大阪市中央区高津1-1-29  www.kouzu.or.jp
   *富亭は本殿の左(西)手前にあります 境内map >>
予約 2000円 /当日 2500円
予約・お問い合わせ:+1art(gal@plus1art.jp



*イベント当日は+1 artの休廊日ですが、開場前13~14時の 1時間、ギャラリーを臨時に開廊します。






藤枝 守
FUJIEDA Mamoru


甕の音なひ
 「発酵」への興味。それは、音から始まった。糖分を分解してエネルギーを得るときに排出される二酸化炭素がその音の源となっているのだが、無数の微生物による二酸化炭素による音の集合体は、渦巻くようなゆらぎを生み出す。そして、その音に身をゆだねていると、その音の渦は、われわれの身体をふるわせ、共鳴させているように感じられる。
 「発酵をよむ」という展示では、二人のアーティストによる映像や空間とともに《甕の音なひ》というサウンド・インスタレーションを試みた。ギャラリーの中央に据えられた甕。そのなかに仕込まれた「どぶろく」は、刻々と発酵の状態を変化させていく。その甕のなかから水中マイク(hydrophone)を通じてきこえてくる発酵の音をギャラリー全体に響かせると、ギャラリー空間そのものがもうひとつの「甕」と化す。そして、発酵という生命の音が「音なひ(voices of the spirits)」という超越的な声に変容する現場となるのである。

藤枝 守



作曲家/カリフォルニア大学サンディエゴ校音楽学部博士課程修了。博士号を取得。作曲を湯浅譲二やモートン・フェルドマンらに師事。純正調などによるあらたな音律の方向を模索。また、植物のデータにもとづく「植物文様」という作曲シリーズを展開し、アメリカのTZADIKやPinna Recordsとともに国内レーベルから「植物文様」の数多くのCDがリリースされている。近年は、「甕の音なひ」や「織・曼荼羅」などの舞台作品を手がけている。現在、九州大学大学院芸術工学研究院教授。






井上 明彦
INOUE Aihiko


発酵という生命現象から引き出された音に、身体を丸ごと浸せる空間的な器をつくること。その制作もまた、音の響きが人の意図以前に多様な意味の震えを生み出すように、光とかたちの多様な響きに導かれること。これが今回のぼくのよみ(読み/詠み)方だった。手がかりは、発酵を促す甕とその中で生じている対流。見下ろすことと見上げることが不断に反転され、視線が上下に対流するなか、身体の水平移動がそれをかきまぜる。
「甕」の音を構成する"k"は口蓋音、"m"は哺乳類固有の唇音、つまり唇の有無に対応する二つの音。それらは発酵に関わる「噛む」と「神」を呼び寄せる。甕の円い口、4つの甕を載せた大きな円形カウンター、上と下に紙と塩の円いスクリーン、浮かぶアルミの輪《ウツワ/打つ輪》とその表面に残る無数の円い鎚跡、それら大小さまざまな円の集合は発酵のたえまない泡立ちを追慕する。
カ・ミの上下に開かれた唇の間に生命の原始は宿ったか。

井上 明彦


略歴
美術家/京都大学大学院博士課程中退。現在、京都市立芸術大学美術学部教授(造形計画)
人間・大地・自然の関係への関心を基軸にジャンル横断的な制作活動を行う。1955年大阪市生まれ。1984年京都大学大学院博士課程中退。1990年代から美術活動を始める。2006-07年文化庁芸術家在外研修でパリ滞在。近年の主な展覧会に、複数形の世界のはじまりに(東京都美術館、2018)、新シク開イタ地(神戸アートビレッジセンター、2016)、still moving(元崇仁小学校、ギャラリー@KCUAほか、京都芸大移転プレ事業,2015, 2016, 2017)、反重力(豊田市美術館、2013)、ふたしかな屋根(個展、ギャルリ・サンク、奈良、2013)、Trouble in Paradise/生存のエシックス(京都国立近代美術館、2010)、invisible ear:椎原保・藤枝守・井上明彦(CASO、大阪、2002)など。https://www.akihiko-inoue.com





稲垣 智子
INAGAKI Tomoko


枯れない花、添加物を入れても黴ない彩鮮やかなケーキやお菓子、赤い液を流し朽ちていく花、黴が生えて醜く様相が変わっていくインスタレーションなど、形態的な自然の変化に意識が向く作品を制作してきた。今回出会ったのは2人のアーティストと「発酵」。「発酵」と「腐敗」は人間の都合によって分けられているが本来は同じ。人間は成長し、歳を重ね、身体は衰えていく。この過程に「発酵」という考えを加えることで、新たな思想を生み出すことになるかもしれない。麹の映像と様々な年齢の女性が眠る映像、二つの映像の時間軸は異なるが、動きの流れがゆったりと重なるよう作られた。麹の菌糸の細部は肉眼で見えそうで見えない一歩先の世界。現れては消えていく5人の女性の静かな眠りと動き。日常に溶け込み、未だなお神秘を秘める「発酵」と、直前までどんな作品が生まれるかわからない3人のコラボレーションに芸術の魔法を見出した。

稲垣 智子


略歴
美術家/1975年大阪生まれ、在住。英国ミドルセックス大学卒業。
英国で美術を学び、帰国後、ドイツ、フランス、アメリカなどのアーティスト・イン・レジデンスにて滞在制作をする。生と死、自然と人工、女性性などを表現した映像インスタレーション、パフォーマンスをとりいれた作品を中心に発表。近年、個展では Decalcomanie(サードギャラリーアヤ、2018年)、 Ghost(Art-U room、2017年)、TEGAMI −稲垣智子(FRISE/ハンブルグ、2016年)、Project ‘Mirrors’ (京都芸術センター、2013年)、グループ展には、カサブランカビエンナーレ(2017年)、WROUGHT(シェフィールド、2016年)、Kyoto Current(京都市美術館、2013年)他 2013年から毎年、映像「Doors」、アーティスト自身がドアを開けて入っていく様子を撮影し編集でつなげていくプロジェクトを行う。






協力:大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻生物資源工学領域
   京都市立芸術大学伝統音楽研究センター