こだまのように
その声は時を経て
再び私の耳に届く
二人の親密な会話に
日々の騒々しいニュースに
その声は過去とよばれる
あるときはシャンパンで祝われ
あるいはバスに乗った少女を傷つける
こだまの響きに世界は揺れる
この地上にもう辺境はない
辺境は時間の中にある
しだいに高まるこだまの声に
未来は耳を傾ける
人間は言葉を使う。言葉には確定的意味が保証されているかに見える。しかし言葉の本来の姿は、響き、形態なのであって、人々がそれに向けて各々に意味を流し込む極めて不安定な伝達の中継地点でしかない。
そして田中は、そのような不安定さこそに逆説的な豊かさを見ているのである。だから田中が古本の文字を焼いたり切り刻んだりするのは言葉の否定ではない。ましてや言葉の集積物である本の破壊でも再構築でもない。田中にとって古本は豊穣な可能性の海なのだ。今回の作品「再訪」は初めて<命あるもの>が登場する。ユーモアと希望を表現した、田中の新境地を示す作品として注目したい。
野口ちとせも人間のコミュニケーションに深い関心を持って創作をしてきた。10年以上続いている<音>シリーズは、聴くという行為を通して意識と無意識の境界を探り、関係性へと繋げていく作業のように見える。今回は対象を広げこの地球上で現在おこっている悲惨な現実に目を向けた。作品に登場する旗は国家(排他的集団)を象徴している。まっすぐ立ち上がる鉛筆群は、その圧力に抗して言葉を学び成長する子どもたち? 様々な言説•映像がこだまする中、私たちにできることは?と野口は自問する。
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