ARCHIVE no.71
BORDER|郡 裕美
2023 1/25(水)ー2/12(日)
郡 裕美
Yumi KORI
去年の夏、ブラジルの小島に滞在した。どこまでも続く空と海を全身で感じたくて、毎朝、日の出前に起きて海岸で瞑想をした。大きく息を吸い込むと朝の空気が私の体を満たし、ふーっと息を吐くと、さっきまで私の体の一部だった空気は再び大気へ返っていく。太陽が昇ると私は静かな海へと向かう。身体の境界が溶けて海水と一体化していく。砂浜には波の形が映されて砂紋ができ、浜に住む数々の生物の生存の跡が残る。足元にある貝殻を拾い、砂浜に線を描いてみる。朝日の鋭角の影がそれを際立たせ、世界をあちらとこちらに分ける境界線になり、同時に私の生きた証にも見える。日が昇りきると、砂の上の線は満ち潮のなかにすっかり消えていた。現れたり消えたりする境界線、BORDERをテーマにした作品を作りたいと思った。
郡 裕美
建築家/美術家。光や音、ミニマルな要素を用いて空間を変容させる作品を、ベルリン、ニューヨーク、東京、サンパウロ、バーゼルなど世界各地で発表。名古屋市生まれ。京都府立大学卒業後、コロンビア大学建築学科修士課程を修了し、翌1996年同大学准教授に就任。ニューヨークに拠点を設け、建築設計と並行してアート活動を開始。2015建築学会賞/ 2012 ARCACIA 建築賞ゴールドメダル/2005文化庁海外新進芸術家派遣など受賞多数。イエール大学、東京理科大学、名古屋工業大学など国内外で教鞭をとり、2016年より大阪工業大学教授。
主な受賞歴
2015 建築学会賞(業績)日本建築学会
2014 環境建築賞 日本建築家協会
2012 ARCACIA 建築賞ゴールドメダル アジア建築家評議会
2005 文化庁 海外新進芸術家派遣
主な展覧会
2022 HOPE、ギャラリー日本橋の家、大阪
2022 Tsumugu、富士テキスタイルウィーク、富士吉田、山梨県
2022 Green Airplane、 船場アートサイト、大阪
2022 壁の向こうへ、ギャラリー日本橋の家、大阪
2016 ゴッピンゲン現代美術館、ドイツ
2015 オスカーニーマイヤー美術館、ブラジル
2014 クイーンズ美術館、ニューヨーク
2010 Miyako Yoshinaga art prospects、ニューヨーク
2009 ムーア芸術大学ギャラリー、 フィラデルフィア
2008 ブラウン大学ベルギャラリー、プロビデンス
2008 マットレスファクトリー美術館、ピッツバーグ
2007 ジャパンソサエティー、New York
2006 SESC PINHEIROS、サンパウロ
2006 ISE CULTURAL FOUNDATION、ニューヨーク
2003 メゾンエルメス8 階フォーラム、銀座
主なパブリックアート
2011 マットレスファクトリー美術館、ピッツバーグ
2006 Firehouse gallery、バーリントン バーモント
2004 Phatory Gallery、New York
2002 武蔵野市立旧中央図書館、東京都武蔵野市
主な廃墟/ 廃屋でのインスタレーション
2008 バヒア近代美術館 、ブラジル、サルバドール
2006 Warteck Guest atelier、 Basel、スイス
2005 Lower Manhattan Cultural Council、ニューヨーク
2005 COCA, Center on Contemporary Art、シアトル
2005 Minoriten Church、 クレムス、オーストリア
2002 クロスター教会廃墟、ベルリン
2000 クリプトナーレ地下貯水場、ベルリン
www.yumikori.com
人間は線を引く動物である、と言った人がいるかどうか知らないけれど、borderという言葉は国境とか境界など、人為的な線を想起させます。 実際、人間は地球上に線を引きまくってきました。 その結果どうなったかは、いまの世界を見ればわかります。
郡裕美は境界に関心を持ち続けてきました。 最近行ったブラジルでは、広い砂浜に線を引いて「世界をこちらとあちらに分け」、そこに人生の軌跡や現代世界の混乱に思いをはせたり、干潮の1~2時間だけ現れる砂浜サッカー場でボールをけって遊ぶ子どもたちが、自然が作る境界をうまく利用する様子に感銘を受けたと彼女は言います。
いま世界では境界をめぐって争いが絶えませんが、アーティストにとって境界は遊び場であり挑戦への誘いです。迷路のような路地にある古い町家ギャラリーで、これまで誰も見たことがない「border」を彼女は見せてくれるでしょう。
+1art カワラギ
©️ +1 art