ARCHIVE no.65
おとだま|今井 祝雄
2022 03/30(水)ー04/16(土)
4/2 (土) PM.6〜
*終了しました
対談 『メディアの変遷とサウンド』
今井祝雄 x 森下明彦(メディア・アーティスト/美術・音楽・パノラマ愛好家)
▪︎会 場 +1art
▪︎参加費 500円 (1ドリンク付)
▪︎予約制
今井 祝雄 Norio IMAI
おとだま〇まるくまんまる 段ボール箱2箱にびっしりと詰められたオープンリールの録音テープは、一時代のある若者が自ら聴いては録音した青春期の痕跡である。それぞれのケースに手書きされた曲名やミュージシャンのメモには、音楽に疎い私の知る曲も少なくなかった。 私はそれらをリールからテープを引っ張り出し、ときにカビを拭いながら球状に丸めていった。最初はピンポン玉ほどから、テニスボール大になり、やがて大きいスイカ大にまで、最後は机の上で転がしながら巻き付けていった。ほどけないよう時々両面テープで固定しながらの単純な作業の5か月余り、テレビでは連日、コロナ禍による自粛が呼びかけられ、それはまだ続いている。 重量10キロになった球体を横目に、2020年の私の3行日誌から、その進行過程を抜きだしてみた。
・3月31日:オーディオ・オープンリールテープの“音だんご”を制作し始めた。
・4月1日:直径10センチ以上になった。
つづきを読む
・4月 7日:大きくなるにつれ、重さも増し、やりづらくなる。 ・4月10日:制作というより「デイリーポートレイト」と併行する日課のようになった。 ・4月12日:テープ19本目。直径が大きくなるにつれ、サイズの変化は判りにくくなっている。 ・4月20日:TVやUチューブを視聴しながら… ・4月21日:“音だんご”が大きくなってきて…「おとだま」にしようか。 ・4月29日:「おとだま」制作が連日続いて指の皮がすべすべになる。 ・5月 1日:45個のテープ完了。巻きつける時に無意識ながら歯をくいしばるのか、マウスピースをつけなければと思いつつ忘れる。 ・5月 6日:52巻目…薄手のゴム手袋をはめて作業する。 ・5月10日:59巻目。大体一日2巻のペースだが、手袋をしていても手が疲れる。 ・5月11日:61巻目。100巻ほどを目標に、カビをクリーニングして… ・5月14日:65巻目…手袋での作業は使い勝手がいい。 ・5月17日:70巻目。手や腕がダルくなるのでボチボチと。 ・5月18日:71巻目。かなり重くなってきた。 ・5月19日:73巻目。大きさよりも重量的に100巻がテープの在庫を含め限界の見通し。 ・5月23日:79巻目、重くなったので、巻きつけるのに力がいる。 ・5月25日:81巻目、手がパンパンなので今日はよそうと思うが、机に向かうとついつい巻きつけ作業になってしまう。 ・5月26日:82巻目、ほぼ一日、無理しないで1巻完了。 ・5月28日:小さい突起は金槌で(球形を保つべく)修正後に巻きつけることに。 ・5月29日:85巻目…ゴム手袋を買うが、暑いので外すと汗で手がびっしょり。 ・6月 6日:90巻目に取りかえるが、手がパンパンになり、リールの整理にかかる。 ・6月 7日:90巻目の途中、リールを(収める)スモークのアクリルボックスの台座をプラン。 ・6月12日:制作は急がないのに、つい完成を見たくて手を出してしまう。新しい手袋で93巻目に。108巻までもう少し。 ・6月13日:93巻目後半。大きく重くなるほど作業がむづかしくなる。 ・6月22日:手がパンパンなので「おとだま」制作休み。 ・7月 7日:99巻目。かなり重くなり、力仕事になってきた。 ・7月23日:104巻目にかかったところで、白い手袋が破れ… ・7月31日:ラストの108巻中ほどまで。手がつかれるが早く完了したい。 ・8月 4日:修正を終え完了。写真にとり、リール入りの台座の図面にかかる。 ・9月 1日:台座が届いて、早速に空リール108個収納、ぴったり。
数えきれない人たちが耳にしたに違いないさまざまな曲が録音されたこのおびただしいテープは、メディアの変遷で再生が困難となったいま、記憶の音の塊となって現前する
2021年 今井祝雄
1946年大阪市生まれ。 美術家。 大阪市立工芸高校在学中から吉原治良に師事し、具体美術協会 に参加。1966年、第10回シェル美術賞一等賞受賞。 以来、内外の展覧会に出品多数。1970年代か ら写真やビデオ、サウンドによる作品も制作。1979年から毎日の自写像作品《デイリーポートレイ ト》を継続。主著に〈白からはじまる-私の美術ノート〉ほか、作品集に〈タイムコレクション〉〈NORIO IMAI〉(Axel and May Vervoordt Foundation)などがある。
2021 個展「SQUARE」(ユミコチバアソシエイツ/東京) 2021 文字模似言葉(ボーダレス・アートミュージアムNO-MA/近江八幡/滋賀) 2021 「踊る心、考える耳」(+1art/大阪、中川裕貴と) 2020 「京都の美術 250年の夢」京都市京セラ美術館 2019 個展「行為する映像」(アートコートギャラリー/大阪) 2019 「日本美術サウンドアーカイヴ―今井祝雄《Two Heartbeats of Mine》1976年」(+1art/大阪) 2018 個展「物質的恍惚」(アクセル・ヴェルヴォ-ルト・ギャラリー/アントワープ) 2018 「具体、絵画の空間と時間」(スーラージュ美術館/フランス) 2017 個展「音のケルン」(+1art/大阪) 2017 「イメージフォーラム・フェスティバル2017」(東京ほか) 2016 「performing for the camera」(テートモダン/ロンドン) 2015 「Re: play 1972/2015―《映像表現'72」展、再演」(東京国立近代美術館) 2014 個展「白の遠近」(ギャラリー・リチャード/ニューヨーク) 2013 個展「オン・ザ・ピアノ」(ギャラリーあしやシューレ/兵庫) 2013 「具体:素晴らしい遊び場所」(グッゲンハイム美術館/ニュ–ヨーク) 2013 「平行する光景:1950年代、60年代そして70年代のイタリアと日本の美術」(ザ・ウェアハウス/ダラス) 2012 「具体」ニッポンの前衛18年の軌跡」(国立新美術館/東京) 2012 「 A VISUAL ESSAY ON GUTAI AT 32 EAST 69 STREET」(Hauser & Wirth /ニューヨーク) 2011 「nul=0―国際的文脈におけるオランダの前衛1961-1966」(スキーダム市立美術館/オランダ) 2009 「ヴァイタル・シグナル―日米初期ビデオアート」(日米各地の美術館ほか~2010) 2006 「ラディカル・コミュニケーション:日本のビデオアート1968-1988」(ゲティセンター/ロサンジェルス) 2004 「結成50周年記念『具体』回顧展」(兵庫県立美術館) 1994 「時間/美術―20世紀美術における時間の表現」(滋賀県立近代美術館) 1988 「日本尖端科技藝術展」(臺灣省立美術館) 1983 「現代美術による写真」(東京国立近代美術館~京都国立近代美術館) 1982 「第4回シドニービエンナーレ」(オーストラリア) 1976 「日本の現代作家展-デュシャンを透して…」(ギャラリー・ペテ/大阪) 1975 「The Party」(ギャラリー16/京都、植松奎二・村岡三郎・MAN RAYと) 1972 「3人の心臓音による街頭イベント」(御堂筋/大阪、倉貫徹・村岡三郎と) 1970 「万国博美術展」(万国博美術館/大阪) 1967 「第5回パリ青年ビエンナーレ」(パリ市美術館) 1966 「空間から環境へ」(松屋/東京)、個展(グタイピナコテカ/大阪)
カセットテープは今でも電気店などで見かけますが、 オープンリールテープは見かけなくなりました。オー プンリールテープは録音/録画用のテープで、1970 年代あたりまで使われていました。 今回の作品に使用されたテープには、1960~70年 代のジャズやロック音楽が録音されています。 これらのテープは段ボール箱に詰められ30年ほど 倉庫で眠っていました。それが、このコロナ禍の最中に、ビートルズもコルトレーンもディランも丸くま ん丸になり「おとだま」に生まれ変わりました。 なお作家コメントにある「まるくまんまる」は木喰 上人のことば「まるまるとまるめまるめよわが心 まん丸丸く 丸くまん丸」から採られた由です。
+1art カワラギ
©️ +1 art