ARCHIVE no.85
s i g n | 山本雄教
10/09(水)ー10/26(土)
何も描かれていない真っ白な絵画がある。 だが、画面に近づくと白い紙に残された筆圧によってイメージが見えてくる。 これが本展に展示される山本雄教のWhite noiseシリーズである。 鑑賞者は微かなノイズ音を聞き取るように白い画面を能動的に見ようとしなければ、紙に残された痕跡を見落としてしまうだろう。
山本はこれまで一円玉硬貨や米粒を用いて人物や物をあらわした絵画やインスタレーションなどを制作してきたが、本シリーズでも集合や距離によってイメージをあらわす手法は共通する。
本展で山本が描くのは、自身のこれまでの展覧会時に芳名帳に書かれた名前である(許諾を得た方のみ)。 通常、作者は作品の完成後に署名を行い、作品の著作権や真贋、価値の証しとする。 一方、展覧会では鑑賞者が芳名帳に名前を記して鑑賞行為を記録する。 山本は本展で美術界におけるこの2つの署名行為を転倒させる。 つま
り、作者が見る者(来場者)の「署名」を描くのである。
では、なぜ山本は芳名帳に書かれた名前をモチーフとするのだろうか。 むろん訪れた著名人や人数のリストを公開したいわけではないだろう。 つまり、展覧会の本当の完成とは作者の署名だけではなく、日頃は見えない鑑賞者一人ひとりの観覧をもって完成と考えているためではないか。 その手がかりが芳名帳なのだ。 この後、私たち鑑賞者にできるのは、実際に会場を訪れ、自分の名前を真っ白な紙に書き記すことである。
平田剛志(美術批評)
山本雄教
YAMAMOTO Yukyo
名は体を表すと言うが、その人が描くその人自身の名前には、より多くの何かが残されている気がする。
これまで作家として活動する中で、芳名帳に残されてきた様々な人のサイン。 そんな書かれた文字たちを、ひとつひとつなぞっていく。 筆圧によってサインは、その下に敷いた新たな紙に凹凸として紙に写し取られていく。なぞられた文字・名前たちは、今展の会場に並んでいく。そしてそこには、会期中に会場を訪れたあなたの名前も加わっていくかもしれない。 果たしてそれらがどのような存在として会場で映るのか。 私も未だに分からないまま、日々なぞり続けている。
(photo : Moriya Yuki)
1988年京都府出身。 2010年成安造形大学造形美術科日本画クラス卒業。 2013年京都造形芸術大学大学院修士課程修了。 近年の主な展覧会に 2023年 山本雄教:仮想の換金(priceless museum)(京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル)、2022年 わたしたちの絵 時代の自画像(平塚市美術館/神奈川)、たえて日本画のなかりせば:東京都美術館篇」(東京都美術館)。 主な受賞に2021年 第8回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞展 準大賞。その他個展、グループ展等多数。
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近年の主な個展
2016「Fake blues」(+1art/大阪)
2019「faint noise」(+1art/大阪)
2021「豊穣の空洞」(河岸ホテル/京都)
2021「Mosaic life」(髙島屋大阪店6階ギャラリーNEXT/大阪)新宿・米子・日本橋に巡回
2021「SYMBOL」(名古屋タカシマヤ10階美術画廊/愛知)
2022「How much?」(Artglorieux GALLERY OF OSAKA /大阪)
2022「〇〇〇〇円の芸術家」(至峰堂画廊/東京、大阪)
2022「Girls & Boys」(ギャラリー和田/東京)
2023「Rich life」(新宿髙島屋8階美術画廊/東京)
2023「山本雄教:仮想の換金(priceless museum)」(京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル)
2023「塵も積もれば山となる」(大雅堂/京都)
2024「対面できない」(ギャラリー恵風/京都)
近年の主なグループ展など
2022「たえて日本画のなかりせば:東京都美術館篇」(東京都美術館)
2022「わたしたちの絵 時代の自画像」(平塚市美術館/神奈川)
2023「META2023」(神奈川県民ホール)
2023「ART AWARD IN THE CUBE 2023」(岐阜県美術館)
受賞など
2013 「京都府美術工芸新鋭展」公募部門大賞 (京都文化博物館)
2013 「美術新人賞デビュー2013」準グランプリ(ギャラリー和田・フジヰ画廊/東京)
2014 「TERRADA ART AWARD」優秀賞(T-Art Gallery/東京)
2017 「第7回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞展」審査員推奨(豊橋市美術博物館/愛知)
2018 「第7回東山魁夷記念 日経日本画大賞展」入選(上野の森美術館/東京) 同8、9回入選
2020 「京都 日本画新展2020」奨励賞・京都市長賞(美術館「えき」KYOTO/京都)
2021 「第8回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞展」準大賞(豊橋市美術博物館/愛知)
2019年に開催の《faint noise》以来+1artでは5年ぶりの個展となる本展では、同シリーズの新作をご覧いただきます。
一見何もない白い画面のように見える作品に近づきよく見ると、その表面にはかすかな凹凸が見える。光が画面に作り出す陰影の美しさに見とれていた《faint noise》での数々の光景が今なお想い出されます。
+1art
ARCHIVES YAMAMOTO Yukyo at +1art
©️ +1 art